
JOANR開発の経緯
厚生労働省のNational Data Baseオープンデータによれば整形外科領域における手術数は年間120万件を超えており、社会の高齢化の影響を受けて増加傾向ですが、これまで全国規模の包括的なレジストリーが存在しなかったため、その全容は明らかではありませんでした。そこで日本整形外科学会では、2017年に運動器疾患に対する手術治療に関するビッグデータに基づいたエビデンス構築を目的に大規模運動器疾患レジストリーシステムであるJapanese Orthopaedic Association National Registry (JOANR)を立ち上げる方針を掲げました。整形外科症例調査・検討委員会(のちに症例レジストリー委員会に名称変更)が中心となり準備を開始しました。2018年12月に日本整形外科学会倫理委員会の承認を受け、2019年3月には運用システムが完成し、委員会委員の各施設において倫理委員会承認後に試験運用を行いました。そして、試験運用の結果をもとにシステムの改良を継続し、2020年4月に本格運用が開始されております。
これからJOANRに期待される役割
JOANRは2階建て構造になっており、1階部分には全手術症例が登録、手術に関する基本的なデータが入力され、2階部分は人工関節手術や関節鏡手術などのより専門的で詳細な手術データが入力されます。
レジストリーに蓄積されたビッグデータは、臨床研究、治療成績や治療レベルの解析とそれに基づいた医療政策策定、診療報酬算定、製造販売後調査(PMS)、難病・稀少疾患の研究開発など、さまざまな分野で活用が可能です。質の高いデータに基づくエビデンスは医療の質の向上、国民に対する良質な医療の提供、医療レベルの向上につながります。さらに登録された症例は整形外科専門医の取得あるいは継続にも用いることができます。JOANRの円滑な運用は本邦の整形外科の発展に不可欠といえます。今後は、JOANRデータを有効かつ適切に活用するための持続可能で安定した運営体制を構築していきます。
JOANRの運用は大変重要である一方で、症例登録は手間のかかる作業でもあります。日整会会員の皆様にはJOANRの重要性を是非ご理解いただき、登録へのご協力を是非お願いいたします。
公益社団法人 日本整形外科学会
理事長 河野博隆